2021年6月11日、日本政府は、中国が2019年7月から実施している日本製ステンレス製品に対するアンチ・ダンピング(以下、「AD」)措置について、中国に対してWTO協議要請を行った旨を公表した¹。中国を相手とするWTO協議要請は、2012年3月のレアアース等の輸出制限措置(DS433)、2012年12月の高性能ステンレス継目無鋼管に対するAD措置(DS454)に次いで、本件が3件目となる。

中国政府は、日本、EU、インドネシア、及び韓国からのステンレス鋼片、ステンレス熱延鋼板、及びステンレス熱延コイル等の輸入急増により国内産業に損害が生じたとして、2018年7月にAD調査を開始し、2019年7月に、上記産品の輸入について、ダンピングの事実、国内産業の損害、及びこれらの因果関係を認定し、AD関税賦課の決定を行った² 。これに対し日本政府は、本AD措置は、中国の調査当局の認定や調査手続に瑕疵があり、関税及び貿易に関する一般協定(GATT)及びAD協定(1994年の関税及び貿易に関する一般協定第6条の実施に関する協定)に違反する可能性があると考え、これまで二国間協議やWTO委員会等の場で措置の撤廃を繰り返し求めてきたが、問題を解決することができなかったため、今般、WTO協定に基づく協議要請を実施することとなった。

日本政府は、本協議要請書において、大きく9点の違反を主張しているが、その主な柱となるのは中国政府の損害認定の誤りであり、ダンピングの事実認定そのものは争っていない³。具体的には、①本件産品の輸入による価格の押し下げを認定するに当たり、個々の産品の様々な違いを適切に考慮することなく、「全体として」価格の押し下げがあったとしていること(AD協定3.1条及び3.2条違反)、②日本、EU、インドネシア、韓国の競争条件の違いを適切に考慮することなく、輸入による価格への影響の累積的評価を行っていること(AD協定3.1条及び3.3条違反)、③国内産業に及ぼす影響についての検討は、全ての関連する経済的な要因及び指標を考慮に入れておらず、客観的な検討と合理的・十分な説明を欠いていること(AD協定3.1条及び3.4条違反)、などを主張している。

経済産業省によると、本件で対象となったステンレス製品の中国への輸出額は年間約700億円、うち対象製品の輸出額は約92億円であり⁴(いずれも2019年)、これらに対して18.1%又は29.0%の追加関税が課された結果、日本製品を輸入する事業者に年間約11億円の追加関税負担が生じている⁵。今後は、本件要請から原則30日以内に二国間協議が実施され(紛争解決に係る規則及び手続に関する了解4条3項⁶)、60日以内に二国間協議で解決できない場合には、日本がパネルの設置を要請できることとなり(同4条7項)、最も早ければ、本年秋頃にもパネルが設置される可能性がある(同6条1項参照)。

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¹https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210611005/20210611005.html
²経済産業省通商政策局・編『2020年版不公正貿易報告書』23-24頁参照https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/tsusho_boeki/fukosei_boeki/report_2020/pdf/2020_01_01.pdf
³Request for Consultations by Japan, China – Anti-Dumping Measures on Stainless Steel Products, WT/DS601/1 (15 June 2021)
⁴脚注1のプレスリリース参照
⁵日本経済新聞「ステンレスの反ダンピング課税、中国にWTO協議を要請」(2021年6月11日21:38配信)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA115M40R10C21A6000000/
⁶https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/it/page25_000433.html

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