EU Sustainability Series (vol. 4): 炭素国境調整メカニズム(CBAM)と日本企業への影響
EU炭素国境調整メカニズム(CBAM)を設置する規則(EU)2023/956(以下「CBAM設置規則」又は「CBAM」)は、2023年5月17日に施行され、同年10月1日から経過措置の運用が開始された。
CBAMの目的は、気候変動対策や排出規制の緩いEU域外からの製品の輸入について報告義務・課徴金の負担(CBAM証書購入)義務等を段階的にEU企業に課すことによって、生産拠点のEU域外移転による排出量の増加や、輸入先のEU域外変更によるEUでの炭素削減努力の希釈化(いわゆる「炭素リーケージ」)を防ぐことである。
CBAMには、セメントや鉄鋼等、その生産プロセスにおいて炭素排出量が多い製品の輸入コストを高くすることで、EU加盟27か国と同等の高い気候変動対策基準を適用するEU域外の企業からの製品の輸入を促進する狙いもある。
CBAMの運用は2023年10月1日から2025年12月末までの移行期間(経過措置)を経て、2026年1月1日からの本格適用が開始される。移行期間中は対象製品の輸入者に対象製品の温室効果ガス排出量等の報告義務が課されるが、課徴金は発生しない。本格適用開始から、CBAM申告者として認定を受けた輸入者(以下「CBAM認定申告者」)は、CBAM証書の購入という形で対象製品の排出量に相当する課徴金の負担が求められることになる。
本稿では、CBAMの適用範囲、CBAMが規定する要求事項、およびCBAMに違反した場合の影響について概説する。また、日本企業がCBAMを将来的に遵守するためにどのような準備をすることが可能か検討する。