日本において米国取引所等での商品先物その他の先物取引を行っている個人や企業も、厳罰化の方向にある米国規制当局の動向に注意する必要があります。

近時、米国において市場における不正行為に対するリスクの高まりが注目されています。近年、米国商品先物取引委員会(CFTC)と米国司法省(DOJ)は、複数の企業やトレーダー個人に対して、貴金属等の商品先物や債券先物等の取引に関し、いわゆるAnti-SpoofingProvision(見せ玉等の不正取引に対する一連の規制条項)を積極的に適用し、場合によっては数千万ドル単位の制裁金を課し、また不正取引にかかわったとされるトレーダー個人に対して刑事罰を求める事例が増加しています。その対象は米国を拠点とする企業のみならず、米国外の企業や居住者も含まれており、本邦法人及び本邦居住者にとっても、無視できないリスクとなっています。

Anti-Spoofing Provision

Anti-Spoofing Provision、いわゆるドッド・フランク法(金融規制改革法)の一部として、米国商品取引所法を改正する形で定められたものであり、”Spoofing”という行為を米国においては初めて明示的に禁止した規制条項として知られています。同条項において”Spoofing”とは、”bidding or offering with the intent to cancel the bid or offer before execution”と規定されています。いわゆる「見せ玉」と呼ばれる行為とほぼ同内容ですが、適用範囲については未だ不明確な点も多く、例えばCFTCのガイダンスによればSpoofingの適用には相場操縦の意図は不要であり、一般的な相場操縦の禁止の規定とは区別して適用されるものとされています。

本規制条項は、米国でライセンスを有するディーラー等の業者のみに適用されるものではなく、取引を行う者すべて(any person)に適用されうるものであり、既に米国外に居住するトレーダーも数多く同規制条項違反により摘発されています。

本規制条項違反はCFTCによる制裁金を含む行政罰の対象となるほか、懲役刑を含む刑事罰の対象となります。海外居住者であるトレーダーに対しても、米国当局は犯罪人引渡し請求を行う可能性がある旨報道されており、後述の通り米国当局は本規制条項の適用に積極的であることからすれば、本邦居住者にとっても本規制条項の内容をきちんと理解したうえで順守する必要があるといえます。

これまでのCFTCやDOJによる処分の前例を検討すれば、本規定違反についてはトレーダー個人だけでなく、当該トレーダーが所属する法人に対しても巨額の制裁金が課せられる事案が多く、トレーダー個人の責任のみならず、法人として、その所属するトレーダーの行為を適切な監督を行っているかどうかという点は、対当局との関係において重要になってくるものと考えられています。

米国当局の姿勢

CFTCの担当官は、米国先物市場の信頼性と安定性を守ることは、金融システムが適切に機能し続けることを維持するために不可欠なことであって、Spoofing行為に対するアグレッシブな摘発は、かかる使命を果たすうえで重要な役割を担っている旨発言するなど、本規制条項の適用及び違反行為の摘発については、米国当局は積極的な姿勢を見せており、CFTCとDOJが共同して事案に対応するなど、今後も本規制条項の違反行為に対する米国当局の厳しい取り締まりは継続するものと思われます。

対策の必要性

米国内において本格的なトレーディング業務を行っている金融機関や企業などは、既に新たなシステムを導入するなどの対応を取っているところも多い反面、米国外においては、未だ十分な対応がとられていないケースが多いと思われます。しかし、米国当局による積極的な取り締まり状況に鑑みれば、米国商品先物取引所やSEF(Swa pExecution Facility)で先物取引を行っているトレーダーを有する企業においては、米国内に拠点を有するか否かにかかわらず、その規模や取引内容に応じて適切な対応を行うことが望ましいと言えます。

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