米国司法省、事業者間の引抜防止協定に対して刑事訴追を進めることを明言
米国司法省反トラスト局(以下、「反トラスト局」)は、2018年5月17日、ヘルスケア業界の事業者間の引抜防止協定について、刑事訴追を前提とした捜査を進めていることを改めて明言した。
そもそも、引抜防止協定とは、他の事業者の従業員を雇用しない、又は勧誘しないことを、事業者間で合意することである。反トラスト局及び連邦取引委員会は、2016年10月に公表したガイドライン(以下、「HRガイドライン」)において、あからさまな引抜防止協定は、反トラスト法に違反する可能性が少なくないことを指摘していた。反トラスト局は、引抜防止協定に対する訴追をこれまでも行ってきたが、直近のものでは、2018年4月3日、鉄道部品製造メーカーであるクノールブレムゼ社(Knorr-Bremse AG)及びウェスティングハウス・エア・ブレーキ・テクノロジーズ社(Westinghouse Air Brake Technologies Corporation)間の引抜防止協定について、シャーマン法1条に違反する当然な違法行為であるとして、ワシントン特別区連邦地方裁判所に対して同意判決の申立てをしている。
このような状況を前提として、反トラスト局の次長(Deputy Assistant Attorney General)である Barnard (Barry) A. Nigro氏は、2018年5月17日、ヘルスケア業界の事業者間においてなされている引抜防止協定をやめさせるめに、刑事訴追を検討していることを再度明言したのである。
Nigro氏による上記発言は、反トラスト局による、引抜防止協定に対する進行中の捜査状況に対する一連の公式見解の中でも最新のものである。例えば、2018年1月、反トラスト局の局長(Assistant Attorney General)であるMakan Delrahim氏は、事業者間において引抜防止協定が頻繁に締結されていることを反トラスト局として認識していること、特定の事件について刑事処分を下す方針であることを、また、筆頭次長(Principal Deputy Assistant Attorney General)である Andrew C. Finch氏は、同月、反トラスト局は数ヶ月以内に引抜防止協定に対する複数の捜査を開始する方針であることを公表していた。
なお、Delrahim 氏及び Finch氏は、刑事訴追の対象となる引抜防止協定は、HRガイドライン公表後に形成されたか、公表後も破棄されずに継続しているものであるとしている。
反トラスト局により公表されている一連の公式見解を前提とする限り、米国においてビジネス活動をしている事業会社としては、HRガイドラインが定義する引抜防止協定や賃金協定の存否について分析し、仮にこのような協定が特定される場合には、刑事訴追を含めたリスクを軽減する方策をとる必要があると言える。