2021年6月10日、中国の全国人民代表大会は、外国の制裁措置への対抗措置等を定めた「中国反外国制裁法(中国名:中华人民共和国反外国制裁法)」(以下「制裁法」という)を可決し、即日公布・施行された¹。中国は、これまでも外国による制裁措置に対抗し、欧米を始めとする外国人に対して中国への渡航禁止や中国企業等との取引禁止などの制裁を課してきたところであるが²、この度の制裁法は、それらの対抗措置を法定するものである。

制裁法は、中国に対する差別的措置の策定・実施や国内問題への干渉に直接的又は間接的に関与した個人・組織を「対抗措置リスト」に指定し(3条及び4条)、①それらの個人及びその直近の親族、②それらの組織の経営に当たる者又は実質的に支配する者、③それらの個人が経営層である又は実質的に支配する組織を含め(5条)、(1)ビザ発給の拒否、入国拒否、ビザの発給取消、国外退去、(2)中国国内に存在する動産・不動産及びそれ以外の財産の差押え、押収、凍結、(3)取引や協力の禁止・制限、(4)その他の必要な措置、を講じることを認めている(6条)。上記の措置を講じる決定は最終的なものとされ、それに対する不服申立ては認められないが(7条)、関係省庁の裁量により、当該決定の停止・修正・取消を行うことは認められている(8条)。また、中国国内の個人・組織には上記対抗措置を実施する義務が課されており(11条)、当該義務を怠った場合には法的責任が追及される旨も定められている(14条)。更に、個人・組織(条文上は中国国内に限定されていない)には外国の差別的措置や干渉を実施・支援してはならない義務も定められており(12条1項)、当該義務に違反した場合には、中国の国内裁判所において差止めや損害賠償を求められる可能性もある(12条2項)。

中国は、制裁法とは別個に、本年1月、外国法の域外適用の執行・遵守を禁止する「外国の法律及び措置の不当な域外適用を阻止する規則」(以下「域外適用規則」という)を策定・施行したところである³。同規則は、EU等においても定められている、いわゆる「ブロッキング規則」を定めたものであり、外国法の域外適用の法的効力を否定する防御的なものであるのに対し、制裁法は、①中国に対する制裁措置等に直接・間接に関与した者を対象に、②米国財務省国外資産管理局(OFAC)による制裁措置に類似した、ビザ発給の拒否や財産凍結等を対抗措置として課すものであり、より能動的な措置を講じる根拠法となるものである。また、③外国の制裁措置に加え、中国の国内問題への介入という、外縁が必ずしも明確ではない要件が定められている点にも特徴がある。

中国に関わるビジネスを行う日本企業は、今後、米国による輸出管理規則の域外適用や制裁措置に従った場合、中国の制裁法や域外適用規則に抵触しうる恐れが生じうることから、仮にそのような懸念が排除できない場合には、できるだけ早期に専門家に相談し、適切に対処することが望ましい。

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¹公表された条文(中国語)は以下を参照。http://www.npc.gov.cn/npc/c30834/202106/d4a714d5813c4ad2ac54a5f0f78a5270.shtml
²例えば、本年1月21日には、ポンペオ前国務長官を含む28人の米国人に対し、その家族を含め、中国本土、香港およびマカオへの渡航禁止等の措置を課す旨が公表されている。https://www.reuters.com/article/us-usa-china-pompeo-blinken-idUSKBN29P14K 
³概要については、当事務所の下記ブログを参照。https://sanctionsnews.bakermckenzie.com/china-issues-new-blocking-rules/ 

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